VHBLについて思うこと
PSOne Classicsに対応するPS Vitaのファームウェア1.80が8月28日に公開され、それに合わせて日本版も存在するneur0n氏のVHBLも9月には公開される予定です。
リリースが近いというのに今イチ盛り上がりに欠ける気がしています。VHBLの記事を書いても記事へのアクセスが以前程増えません。
最近少し熱が冷めて来ているのではと感じずにはいられません。何故なのかは分かっています。そもそもVHBLとは何かを考えると今の状況は必然なのです。ではVHBLとは何なのか、今後何をもたらしてくれるのかについて考えてみました。
元々VHBLはノーマルPSPでHomebrew(自作アプリケーション)を起動するためのeLoaderから発展したHBL(Half Byte Loader)がスタートでした。ゲームに存在する脆弱性(exploit)を利用してユーザーが自作非署名コードを実行できる環境を準備してゲームが利用していた関数を活用してHomebrewを実行できるようにするものです。あくまでも脆弱性を持つゲームが起動している環境がベースになるためPSPのHomebrew全てが起動する訳ではありませんし、メモリーの確保も十分できる訳ではありません。使用するにはある程度の制限がある、と言って良いでしょう。
PSPにはユーザー領域のメモリーだけを扱えるユーザーモードexploitと、カーネル領域含めた全機能を利用できるようにすることが可能なカーネルexploitの2種類の脆弱性があります。前者を利用したものがHBLで、後者がHEN(Homebrew Enabler:Homebrewを実行できる環境)やCFWです。端的に言うと大は小を兼ねる、であり、HENやCFWであればHBLでできることはすべてできます。HBLにも存在意義があるように感じますが、現実的にはHENやCFW環境が手に入るのであればHBLは不要です。不要というよりもわざわざゲームを購入する必要があるHBLはHomebrew起動を目的とするならば率直に行って「要らない子」です。
PSPは現在最新ファームウェアが6.60で、HENどころかCFWが存在する環境です。したがってHomebrew起動であればわざわざexploitを探してHBLを移植したところで需要はありません。HBLがなくても既にHomebrew起動できる環境が用意できるからです。
PS VitaのPSPエミュレータはファームウェア6.60のPSPをエミュレートしています。これはVita発売時からずっと6.60のままです。
つまり、PSPであればHBLは要らない環境で、PS VitaだからこそHBLのVita版であるVHBLがもてはやされた訳です。
PS Vita発売直後にteck4氏がPSPのexploitがそのままPS VitaのPSPエミュレータで有効だと発見したことが大きな話題となりました。それは当然です。発売された直後に自作コードが動作した=ハッキングできたことは予想外の出来事で、絶対に対策を施したPSPエミュレータが搭載されているはずだとみんなが勝手に思っていたことがあっけなく否定されたのです。
当初は話題性が先行してVHBLはセンセーショナルなハッキングとしてもてはやされました。PS VitaでHomebrewが実行できるとは、なんて素晴らしいんだろう、と。
ところがソニーはVHBLに必要なゲームを購入できないようにPlayStation Storeから削除し、かつPS VitaのファームウェアをアップデートすることでVHBLで利用しているexploitを発動できないようにする対策を施してきました。PlayStation Storeでゲームを購入するには最新のファームウェアへのアップデートが必須ですので対策を施されたファームウェアを順次強制的に適用させられるのです。
VHBLはこの後もいくつかリリースされ、同じようなストーリーを何度も繰り返してきました。ここで当初はVHBLをもてはやして来たユーザーも気が付くのです。VHBLは非常に賞味期限の短いハッキング技術で、ゲーム購入コストが必ず必要な割にはできることは所詮PSP向けに開発されたHomebrew起動のみであり、そもそもPSPを使えば何の苦労もなく起動するものをわざわざPS Vitaでゲームを買ってまで試しているだけであり、対策ですぐ使えなくなるのを承知で興味本位で試して遊んでいるだけの自虐的ハッキングでしかなく実用性がある訳ではない、と。
誤解を恐れず言えばそれがユーザーの本音だと思いますし、だからこそ回数を重ねてくるとVHBLは需要の少ない盛り上がらないハッキング技術に成り下がってしまったのです。
それでも何故wololo氏はVHBLをリリースし続けるのでしょうか。
直接wololo氏に聞いた訳ではありませんのでこれから書くことは私が思っていることです。
VHBLの開発には、PSPでの開発に加え、Vitaならではのいくつかの関門があります。それはデータのVitaへの転送方法であり、転送後のデータの取り扱い方法のことを指します。つまり、実行環境構築がVitaでの関門に当たるのです。実際の開発は実はすべてPSPで行いますのでVHBLの開発はPSPでの開発を意味します。
そのVitaの関門というのはVHBLならではという部分も当然ありますが、今後実際にVitaのネイティブハッキングにトライして行く上でおそらく共通技術になります。つまり、VHBLのデータ転送技術はネイティブハッキングのための情報の蓄積なのです。
そして、最もVHBL登場が世に与えた大きな功績は開発者の育成です。
PSPは既に1世代前のモデルであり、これからPSPの開発に新たに取り組もうというモチベーションが高まるような材料は殆どありません。当然その状況だと新たな開発者は生まれにくいですし、限られた著名な開発者がいつまでも君臨して世代交代が進みません。ゲーム機のハッキングはアンダーグランド色が強いのでその状況ではいつかシーンが廃れてしまいます。
ここでVHBLをはじめとした今のPS Vitaシーンを思い描いてみてください。最近色んな開発者の名前が出て来ていることにお気づきでしょうか。VHBL登場以降だけでも数多くの新しい開発者の名前が挙がってきて、そしてその後も活躍しています。これはVHBLが触媒となってPS Vita/PSPシーンが活性化している証拠でもあります。
VHBL開発の中心的役割を担っている開発者の一人であるwololo氏は、ブログでVHBLの情報発信を積極的に行っている他、コンテストなども主催して常にシーンを活性化させようとしています。もしVHBLがなかったら今ここまでPS Vitaシーンは盛り上がっていなかったでしょうし、PSPシーンに至っては過去の遺産と化してしまっていたかもしれません。つまりVHBLはシーン活性化のためには絶対に必要なものであり、新たな開発者が生まれるきっかけでもあるのです。
ユーザーとしては単に興味本位以外の目的を見つけ難い今のVHBLですが、正直に言ってVHBL自体にメリットがあるとは私も思っていません。しかし、ここで書いたように今後のPS Vitaシーンの発展には欠かせないものであり、今はそれに頼らざるを得ないのです。VHBLだナンだと騒いでいるのを冷ややかに見ている方が圧倒的に多いと思いますが、VHBLがきっかけだったという開発者がきっと何年か後に現れるに違いありません。