和解に至ったGeohot氏が得たもの

DMCA(デジタルミレニアム著作権法)やコンピュータ犯罪取締法違反を防止するためという目的で、Geohot氏とfail0verflowチームが公開した情報が違法コピー問題に直結するとして2011年1月11日、Geohot氏の元へSCEAからの訴状が届きました。
当時の状況は「{Geohot x fail0verflow}x SONY = ? 成立するかソニーのシナリオ」に書きましたが、あれから3ヶ月経った4月11日に、弁護士を雇い正面からSCEAと法廷で戦ってきたGeohot氏がSCEAとの和解に応じたというニュースが飛び込んできました。

法廷で勝訴するのか敗訴するのか、その裁定を得る前に和解に応じたGeohot氏は何を思い和解に至ったのでしょうか。

Geohot_settled

PlayStation.Blog:Settlement in George Hotz Case

Sony Computer Entertainment America (“SCEA”) and George Hotz (“Hotz”) today announced the settlement of the lawsuit filed by SCEA against Hotz in federal court in San Francisco, California. The parties reached an agreement in principle on March 31, 2011. As part of the settlement, Hotz consented to a permanent injunction.
ソニー コンピュータ エンターテイメント アメリカ(“SCEA”)とGeorge Hotz(“Hotz”)は本日、SCEAがHotz氏に対しカリフォルニア州サンフランシスコ連邦裁判所に提訴した訴訟について和解に至ったことを発表いたしました。当事者間で2011年3月31日に原則合意に至りました。和解の内容にはHotz氏が恒久的な差し止め命令に合意したことが含まれています。

Both parties expressed satisfaction that litigation had been quickly resolved. “Sony is glad to put this litigation behind us,” said Riley Russell, General Counsel for SCEA. “Our motivation for bringing this litigation was to protect our intellectual property and our consumers. We believe this settlement and the permanent injunction achieve this goal.”
両者は共に訴訟が迅速な解決に至ったことに満足しています。SCEA顧問弁護士のRiley Russell氏は「ソニーは我々が今回の訴訟で結果を出したことを喜んでいます。訴訟における我々のモチベーションは知的財産と顧客の保護を実現すると言う想いでした。今回の和解で得た恒久的差し止め命令により目的は達成できたと考えています。」と述べました。

“It was never my intention to cause any users trouble or to make piracy easier,” said Hotz, “I’m happy to have the litigation behind me.” Hotz was not involved in the recent attacks on Sony’s internet services and websites.
一方でHotz氏は「ユーザーをトラブルに巻き込んだり違法コピーの敷居を下げたりするのは自分の意図するものではない。訴訟が解決したことは素直に嬉しい。」と話しています。なお、Hotz氏はソニーのインターネットサービスやウェブサイトサービスが攻撃を受けた事とは無関係です。

SCEAの発表文からは円満解決のような雰囲気が漂っています。

一方Geohot氏は、和解を受けてブログで次のように述べています。
geohot got sued:Joining the SONY Boycott

As of 4/11/11, I am joining the SONY boycott. I will never purchase another SONY product.
2011年4月11日から、ソニー製品不買運動に参加する。金輪際ソニー製品は買わない。
I encourage you to do the same. And if you bought something SONY recently, return it.
みんなにも不買運動をしてもらいたい。最近ソニー製品を買った人は返品しよう。
Why would you not boycott a company who feels this way about you?
客を客と思わない会社の製品をどうしてボイコットしないの?

ソニーとの決別宣言のようなコメントが並び、とても和解したとは思えない内容です。

和解内容を尋ねたり和解理由を尋ねる質問には次のように答えていました。寄付したのは和解してほしいからではないという意見も。

The terms of the settlement agreement are “confidential” and the matter requires that they be “confidential”.
和解合意の条項は”機密事項”なので、内容は”機密”だよ。

I will address the donations in a forthcoming post, and I think people will be happy.
次回の記事で寄付のこと書くよ。みんながハッピーになると思う。

By contract, I cannot discuss the Action or my views regarding the Action.
契約だから、訴訟について話すこともできないし、訴訟についての見解も言えない。

I am bound by a permanent injunction.
俺には恒久的な差し止め命令に従う義務がある。

内容に関してGeohot氏は一切口にしません。

当然のことながらコメント欄にはGeohot氏の訴訟費用のために寄付をしたユーザーが多数批判的なコメントを寄せてきました。Geohot氏はその批判的コメントにいくつか返信をしています。

何が起こったの?連絡くれよ。
500ドルも寄付したんだぜ。俺ボロボロじゃんよ。
ちゃんと全部説明してくれ。で、OtherOSは復活するの?

It definitely was not a waste, I assure you.
無駄になんかしてない。それは保証する。

I have many things to talk about, like my dog, chickens, and how it’s very bad to use your hardware in a way the manufacturer didn’t intend.
言いたいことは山ほどあるけど、うちの犬とかニワトリの話が、あとみんなが買ったハードウェアをメーカーが意図してない使い方をすることがどのくらい悪いことなのかとかね。

アンタが俺達を代表して戦ってくれると思ったから10ポンド寄付したのに騙された気分だ。俺たちの側に立ってるんだと思ったのにソニーと同じ船乗りやがって…10ポンドは自由に使っていいけどオレはお前のハックもう使わない。
I am fighting your fight, in the best way I know how. You’ll just have to trust me.
俺は君たちの力で戦った。ベストな方法だったと思う。みんな俺を信用してほしい。

和解内容にはfailoverfl0wの人たちも含まれてるの?それともSCEAに訴えられた状態のまま?
I am not allowed by the terms of the settlement agreement to discuss the Action(lawsuit)
和解内容の条文で、訴訟のことは話せないことになってる。

なんでAppleは訴えないの?Jailbreakしたのは同じような話でしょ?
I think Apple actually likes their customers.
それはAppleが顧客を大切にするからでしょ。これとちがって↓
sony_bullshit_anim4

和解内容って公開されないものなの?
もしそうならホントに俺達のために戦ったっていう証拠見せてよ。

The terms of the settlement agreement are “confidential”
和解内容は”機密”なんだよ。

I will attempt to clarify this further in upcoming posts. But if it isn’t already clarified by the work I’ve done on the iPhone, I’m not sure how much more I can convince you.
詳しいことは今度ブログに書くよ。でもiPhoneの時の話ですらはっきり伝えてないから納得してもらえるのかどうか微妙。

In general in court cases, the settlement agreement is not filed with the court. If a party is bound by an injunction, that would have to be made available on the public docket.
一般的に裁判で、和解内容は法廷に提出されない。当事者にその命令が義務付けられるなら内容は公表されるはず。

Hilarious that anyone would even consider the idea that I would consider working for Sony. I wouldn’t work for someone I hated, no matter how much they paid me.
俺がソニーの側に着いたなんて考えている人がいるなら笑っちゃうよ。嫌な奴のために何かするなんて気は毛頭ないし、金もらったってお断りだ。

長い目で見たらソニーが得なんじゃないの?
I believe there is a war coming that extends much much further than “is jailbreaking fair use?” and Sony.
「Jailbreakは公正利用なの?」とかソニーが、とか以上の戦いがこれから始まると俺は思ってる。

ひいきのサッカーチームに寄付するのは頑張ってほしいからだ。ホイッスルが鳴る前に諦めるのは許さない。
That’s one way to look at it. Another way is that they are saving their strength for games where the refs aren’t biased and that actually have much more importance to the rest of the season.
それは偏った見方だ。考え方を変えれば、審判に偏りがない公平さがあるのなら残りのシーズンのゲームのために力を温存しておくという考え方だってできる。

What I’ve found in all PS3 related matters is no matter what you do, you make tons of people pissed off. You release something, people are pissed. You don’t release something, people are pissed. Sony removes OtherOS, people are pissed at YOU. You settle, people are pissed. You fight, people are pissed. You talk, people are pissed. You stay quiet, people are pissed.
PS3に関する話で分かったのは、君たちが何をするにも結局は文句を言うということだね。君がなにかをリリースすると、みんなは文句を言う。リリースしなけりゃそれはそれで文句を言う。ソニーがOtherOSを削除すれば君に文句を言う。和解すれば文句を言う。戦いを挑めば文句を言う。しゃべったら文句を言う。黙ってりゃそれはそれで文句を言う。

The conclusion I have drawn is that PS3 fanboys are just pissed off.
結局結論は、PS3使ってる連中は単に文句ばっかり言うってことだ。

And no one except me has lost any rights today.
そんなことじゃ法廷で戦った俺以外は今日で全ての権利消失だよ。

法廷で戦うのに金がいる、全部のPS3にOtherOS付くまで納得しないと言ったのはGeohotだけど全部ウソ。全部持ち逃げしてトンズラ。これでまた5年PS3のjailbreakは檻の中。
I promise you none of your money will end up in my pocket. And I haven’t set anything back at all, hilarious how you can claim I set the jailbreak movement back. I was there when it was invented. The original iPhone hackers, me included, invented the word usage.
神に誓ってみんなからもらったお金は一銭たりとも着服してないよ。誰にも返却してないし

奴は秘密のままにしたいんだよ。俺たちを売ったんだしな。
I do not like confidentiality
俺は秘密が好きなわけじゃないよ。

実際にGeohot氏は裁判費用として集めた寄付金の残り全額と、キリのいい数字になるよう自費を加えて10,000ドルを法律面での主張を行なう非営利組織EFF(Electronic Frontier Foundation:電子フロンティア財団)に寄付しています。(「みんながハッピーになる」のはその話のようです。) 実際に弁護士へいくら報酬を支払ったかが不明ですので、第三者が10,000ドルの寄付を一切着服していないということを証明することはできませんが、弁護士まで雇った法的な舞台に身を置いていた以上性善説が成立し寄付で集めた金は用途外には流用していないと思われます。
※EFFは携帯電話のアンロックやjailbreakをDMCA免除にするよう公的機関に請願したりといった活動をしている団体

一方、機密事項としていた和解文書がPSX-SCENEでpdfファイルとして公開されてしまっています。Geohot氏が合意したという事項は以下のA-Fです。私は法律家ではないため法律用語ならではの表現がうまく翻訳できていないと思いますので間違いがあればご指摘ください。
PSX-SCENE:Settlement in George Hotz Case

A. Engaging in any unauthorized access to any SONY PRODUCT under the law
無断で全てのソニー製品にアクセスする場合は法律に基づく範囲内で行う事
B. Engaging in any unauthorized access to any SONY PRODUCT under the terms of any SCEA or SCEA AFFILIATES’ license agreement or terms of use applicable to that SONY PRODUCT, whether or not Hotz has accepted such agreement or terms of use, including without limitation:
無断で全てのソニー製品にアクセスする場合はHotz氏がそれを受け入れたかに関わらず、全てにおいてSCEAまたはSCEA関連会社との使用契約やソニー製品の適切な利用条件に基づく範囲内で行う事。以下についても無制限に適用する。

    1. reverse engineering, decompiling, or disassembling any portion of the Sony Product
    ソニー製品についてのリバースエンジニアリング、逆コンパイル、逆アセンブル
    2. using any tools to bypass, disable, or circumvent any encryption, security, or authentication mechanism in the Sony Product;
    ソニー製品の暗号化、セキュリティ、認証メカニズムを回避、無効化、迂回するためのツールの利用
    3. using any hardware or softare to cause the Sony Product to accept or use unauthorized, illegal or pirated softare or hardware; and
    ハードウェアまたはソフトウェアを用いてソニー製品に対し、未認可、違法または不正に複製されたソフトウェアまたはハードウェアを利用できる状態にすること、またはそれを利用すること
    4. exploiting any Sony Product to design, develop, update or distribute unauthorized softare or hardware for use with the Sony Product.
    ソニー製品の利用に当たり設計、開発、アップデート、あるいは未認可のソフトウェアまたはハードウェアの配布によるソニー製品の悪用を行うこと
    If any term of such SCEA or SCEA Affilates’ license agreement or terms of use applicable to that Sony Product shall be determined by Congress or by a court of law in a final non-appealable decision in an action to which SCEA or an SCEA Affiliate is a party to be illegal and unenforceable, then such term shall not be binding on Hotz.
    ソニー製品に対するSCEAまたはSCEA関連会社の使用契約や利用条件が議会または最高裁で違法または施行不可という決定された場合、Hotz氏はこれに拘束されない

C. CIRCUMVENTING any of the TPMs or security in any SONY PRODUCT;
ソニー製品に属するTPM(Trusted Platform Module:セキュリティ保護のためのICチップ)またはセキュリティに関連する行為は回避すること
D. TRAFFICKING in any technology, product, service, device, component, or part thereof that, at the time of Hotz’s trafficking, circumvents any of the TPMs or security in any SONY PRODUCT, including but not limited to the Ellptical Curve Signature Algorithm (“ECDSA”) Keys, encryption and/or decryption keys, dePKG firmware decrypter program, Signing Tools, 3.55 Firmware Jailbreak, and/or any other technologies that enable unauthorized access to and/or copying of the PS3 System and/or enable compatibility of unauthorized copies of other copyrighted works with the PS3 System.
技術、製品、サービス、デバイス、コンポーネントまたはその一部であってもこれを取引すること。Geohot氏との取引に当たってはソニー製品に関するTPMまたはセキュリティの回避を行うもので、Ellptical Curve Signature Algorithm (“ECDSA”) Keyや暗号化/復号化key、ファームウェアを復号化するプログラムdePKG、署名ツール、3.55ファームウェアjailbreakをはじめ、未認可アクセスの技術、PS3システムの複製技術、PS3システムで動作する未認可のその他著作物に動作互換を与える技術などが含まれる
E. Distributing or posting any SCEA or SCEA Affiliates’ confidential or proprietary information relating to any SONY PRODUCT;
SCEAまたはSCEA関連会社のソニー製品に関する機密事項または特許情報についてはこれを配布または掲示すること
F. Knowingly assisting or inducing others to engage in any of the conduct set forth in A-E above solely directed at any SONY PRODUCT or that otherwise constitutes contributory liabilty under the law.
上記A-Eに掲げる行為を第三者を含めソニー製品に関して従事させるよう援助または誘導すること。それ以外の場合は法令に基づく責務を負うこと

Ars Technicaでは、Geohot氏の弁護士を務めたYasha Heidari氏に接触しインタビューを試みています。弁護士から見た今回の裁判が語るものとは一体なんでしょうか。
Ars Technica:Hotz lawyer: PS3 hacking case over, DMCA and IP abuse live on

The terms of the agreement are listed in detail, and they essentially boil down to the fact that Hotz will not work to get around any Sony encryption, nor will he help others do so in any way. What’s odd about this wording is that Hotz has agreed not to use the hardware in any unauthorized way, while Sony did not get a chance to prove that the original charges constituted unauthorized use under the DMCA. The terms used in the agreement were under contention during the case, and those issues were never settled in a legal setting. So the question of what a PS3 owner can legally do with the console she legally acquired is still an open one.
It would have been a long, expensive fight
合意した和解内容によると、結局はHotz氏はソニー製品の暗号化解除への取り組みだけでなく第三者に対して同様の取り組みを幇助することもできなくなります。Hotz氏は認められていない手段を用いてハードウェアを利用しないということには同意したものの、DCMA(デジタルミレニアム著作権法)で認められていない利用だと当初ソニーが告訴していた内容については何も書かれておらず、ソニーにはそれを証明する機会が存在しなかったことになります。和解の合意内容に出てくる言葉は法廷での論争に実際にあったもので、法的に解決しなかった問題です。そのためPS3の所有者がPS3本体に(認められていない方法で)アクセスすることが法的に認められているのかどうかについては答えが出ていません。

While many people are disappointed that the case didn’t result in precedent-setting vindication for Hotz, Heidari is sympathetic to the decision to settle. “It’s easy for someone to stand on the sidelines and want someone else to spend the next five years fighting for something, but once you’re in the fight, and you’re being called 24/7 and you can’t do anything without facing public scrutiny, and it’s having tangible effects on your personal life, I think people think differently about it,” he told Ars. “People don’t remember that George is only 21, and he’s fighting a multibillion dollar corporation. It’s a hard fight for anyone, much less a single individual.”
多くの人が、Hotz氏の判例が前例となる結果にならなかったことに落胆していますが、Heidari氏は和解に至った決断には同情しています。「傍観するだけだったり、誰かにこれから5年間戦って欲しいと思うだけなら簡単なことですが、実際に戦う人は毎日毎日呼び出され、来る日も来る日も調べられ、自分のことは一切何もできず、日常生活に支障をきたすわけですから、考え方を変えてあげた方がいい。Georgeはまだ21歳という若さで超巨大企業と戦ったんですよ。誰がやっても相当無理がある話なのに、ましてや1人で戦うなんて。その事実をみんな分かってない。」

The other issue is that Sony was more or less silent during the case, while Hotz and his team were available for interviews, helping the press with coverage. “I’m not sure I’d say it helped the case, but that’s one of the most significant things I was trying to accomplish with this case, which is to get these issues into the public light,” Heidari explained. “I believe it’s very important, when it comes to IP issues, to have the public discourse focus on what’s taking place.”
ソニー自体は裁判の間何のアクションも起こさなかったが、Hotz氏は彼自身も彼の仲間も聞き取り調査をしたりマスコミの取材時間に合わせたりと多忙でした。「その努力が法廷で有効だったかどうか定かではないが、事実をメディアを通して伝えることは私がこの裁判に勝つために重要なことだった。」とHeidari氏は説明しました。「今でもそれは重要だと信じてます。IPアドレスの問題が出てきた時、何が起こっているのかが伝わり注目が集ったわけですから。」

IPアドレスの問題。
これはGeohot氏のサイトやGeohot氏が公開したYouTubeの動画を見たユーザーのIPアドレスを公開するようプロバイダやGoogleなどへ働きかけたという話です。
Geohot氏へ寄付したユーザーの情報の提供をPayPalへ働きかけた話もありました。

気楽な傍観者の立場から一転して当事者になる可能性があった一般ユーザーの真剣な議論を呼び起こすことができ、メディアを巻き込んだ是非論争を引き出すことに成功したことになります。

世界的巨大企業を相手に21歳の若者が対等に戦うための武器は、世論をおいて他にありません。

Geohot氏の行為が違法コピーに関わるとしてDCMA(デジタルミレニアム著作権法)違反だとする主張はある時から出てこなくなり、風向きはGeohot氏勝訴かという流れでした。

ところがGeohot氏は法廷で虚偽証言をしたのではないかという疑惑が明らかになりました。Geohot氏の主張は
1. 自分は今まで一度たりともPS3の違法コピーに手を出したことはないし、誰にも勧めたりしていない
2. PSNでのオンラインプレイは今まで一度もしていないしチートにも全く興味がないばかりか、他人に勧めたりもしていない
3. 自分で所有していないものは一度もハックしたことがないし、他人のものでも所有者の同意なしにハックしたこともない

ソニーは、もしGeohot氏がPSNアカウントを持っていれば必ずソニーのPSN規約に同意しているはず(=故意に規約に違反してハッキングをしたことを認識していたはず)だとして躍起になって探したところ、Geohot氏が持っていないと主張していたPSNアカウントは実は”blickmanic”という名前で取得していたことを突き止めたと主張しました。

この一件で明らかに流れが変わったかに思いましたが、実際には”blickmanic”がGeohot氏のアカウントであることを証明する証拠は一切存在しなかったようです。法廷文書をまとめたGroklawというサイトに以下の記載がありました。
Groklaw: Hotz Ably Fights for His Motion to Dismiss – Tells Court SCEA’s Case Doesn’t Belong in CA

There’s no evidence that blickmaniac is Hotz. The serial number that SCEA claimed was blickmaniac’s doesn’t match the serial number that Hotz provided the court. As for blickmanic, Hotz’s lawyers have found a blog posting on the Internet from someone saying *she’s* blickmanic, not Hotz. There’s no evidence Hotz ever accepted the Playstation Network terms of service or opened an account.
Hotz氏がblickmaniacだという証拠は一切存在しません。SCEAがblickmaniacの所有するPS3のものだと主張していたシリアルナンバーは裁判で証拠として認められたHotz氏のシリアルナンバーとは一致しませんでした。blickmanicに関してはHotz氏の弁護士がネット上のあるブログでblickmanicの持ち主は”彼女”でありHotz氏ではないとの書き込みを見つけています。つまりHotz氏がPlaystation Networkのサービス規約へ同意した証拠やアカウントを開設した証拠は一切存在しないということです。

つまり、Hotz氏が敗訴しそうになったかに見えた原因は実は存在しなかったことになります。

それでも実際には和解に合意することになりました。

先のGeohot氏の弁護士であるYasha Heidari氏はGeohot氏をこう評価しています。

Neither side said uncle, but in the end George Hotz is able to walk away knowing that while he may not have wrestled the giant to the ground, he at least gave as good as he got. For a 21 year-old hacker going against a multinational corporation, that’s no small thing.
ケンカ両成敗のような結果ですが、George Hotzは超巨大企業と戦い優位に立つことはないだろうと知りながら戦い抜いたわけで、少なくとも力は出し切りました。わずか21歳のハッカーが多国籍企業と正面対決したという事実。その事実が持つ意味は決して小さくありません。

DMCA(デジタルミレニアム著作権法)違反だという主張を撤回せざるを得ず、単に「規約違反」だけ、しかもGeohot氏に対してのみ守られることになったSCEAと、自分が購入した「ソニー製品のみ」の自由なハッキングを手放すことになったGeohot氏。

結果的にソニーは今後他のハッカーがPS3のハッキングを試みた際も前例としてそれを止めるための法的カードを手に入れ、Geohot氏はハッキング=著作権法違反というメーカー側の主張を法律上事実として認めさせなかったことになります。和解文書で定義されている「PS3への不正アクセス」はGeohot氏に限って認められていないだけでPS3シーンへ影響を及ぼしている内容ではありません。

事実上どちらが勝ったのかの判断は非常に難しいでしょう。

和解と言ってもGeohot氏にしてみればソニー製品からハッキングする自由を奪われたわけですので、和解が決して満足の行く結果だった訳ではありません。
ソニー製品をハッキングできなくなったGeohot氏はブログで「今日(4月11日)からソニー製品のボイコット(不買運動)に参加する。みんなも強力してほしい。既に購入したソニー製品は返品を」とコメントしています。彼にとってハッキングの自由が存在しないソニーは買う価値がないようです。

まるでソニーを嫌っただけで話が終わってしまったかのような結末ですが、Geohot氏が狙っているのはあくまでもソニーを屈服させることなのかもしれません。Geohot氏のブログはタイトルが「geohot got sued(geohot訴えられたの意味) 」となっており和解が成立した今テーマを失っていますが、ブログでA New Topic(新しい話題)としてOtherOS集団訴訟(PS3のLinuxインストール機能をGeohot氏のexploitがきっかけとなりソニーが削除したことを不服としてソニーに対し訴訟を起こしている)を取り上げています。

geohot got sued:A New Topic

As a quick sidenote, they claim restoring Linux to your PS3 is “not only prohibited under Sony’s agreements, but is illegal” This is an example of a lie. EULAs are not law.
ソニーは、PS3にLinuxを復活させることは”ソニーの規約で禁止されているだけでなく違法行為に当たる”と主張しているが、これはウソだ。EULA(End User License Agreement:使用許諾契約書)は法律じゃない。ソニーの信条が法律なんておかしい。

確かに法律ではありませんが、それ以前にOtherOS集団訴訟でソニー側が敗訴した場合、Linuxインストールを禁止しているというEULA自体が違法と判断されるかもしれません。

ここで思い出すのが、和解文書の中の注釈文です。

If any term of such SCEA or SCEA Affilates’ license agreement or terms of use applicable to that Sony Product shall be determined by Congress or by a court of law in a final non-appealable decision in an action to which SCEA or an SCEA Affiliate is a party to be illegal and unenforceable, then such term shall not be binding on Hotz.
ソニー製品に対するSCEAまたはSCEA関連会社の使用契約や利用条件が議会または最高裁で違法または施行不可という決定された場合、Hotz氏はこれに拘束されない

OtherOS集団訴訟の結果如何では、また動きが出てくるかもしれません。

審判が公平に行われるなら今後のために力を温存しておく、これがGeohot氏の判断のようです。

和解に至ったGeohot氏が得たもの” に対して3件のコメントがあります。

  1. N崎 より:

    お忙しい中、更新お疲れ様です。

    彼の和解を不服に思う方がいれば残念ですが‥カリフォルニアに本拠地を置く大企業が何故あそこで裁判をやりたがるのか、その著作権保護に対する考え方などを調べると何となくですが、分かってくるかも知れません。
    法も警察も時として正しいものの味方ではなく、大きな力の一部であるのだと思います。
    また弁護士の方もおっしゃっておられますが、年がら年中訴えられては警察にしょっぴかれ、痛くもない腹をさすられたり、周囲や家族を巻き込まれたりというのがどれほど精神的に苦痛であるか、一度味わったことのある人間なら分かろうものです。
    私は今回の和解は彼の本意でなくとも、痛み分けであり(SCEの主張が強引すぎて法的に無理があった)、けっして負けではないと思います。
    しかし一ハッカーが、ほぼ無限の財力を持つ企業に対して長期戦を続けることに意味を見出だせなかったのはでしょうか。
    これで終わったとは思えません、彼には将来何としてもこの屈辱を晴らして頂きたいものです。

  2. とり より:

    SCEAにとっての今回の一連の争い最大の収穫は「判例を得た」事なんでしょうね
    裁判の経過を見ると相当警察が強引に動いていますし、PCを中心にしたツールやストレージの押収や裁判所からの提出命令などもかなり執拗に行われた辺り、「こういう目に遭いたくなかったら控えろよ」という態度を示したかった感がアリアリで、もうハッカーという存在をデベロッパーの一種ではなく、完全に犯罪者として分類してしまっているのが色々残念だなぁというか

    これでもしNGPがPS3より早く突破される様な自体が起きたら、まずSCEはハッカーに対する態度よりも自社の開発リソースの規模を少し見直した方が良いぞと言いたいですね

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