3D元年という言葉はユーザーの視点なのか
CVGで、ソニーが過去のPlayStation用のゲームを3D化して行く方針であることを伝えていました。3D元年とも言われる今年2010年。3D一色となることが予想される今年のE3。間違いなく今年のトレンドは「3D」ですが、それってホントにユーザーが期待しているものなのでしょうか。
【情報源:CVG】
Sony: More old PlayStation games to go 3D
ソニー:過去のPlayStationゲームを3D化へSony is planning to ‘retrofit’ more existing PlayStation games with 3D – but admitted that doing so is harder than creating a new 3D game from scratch.
ソニーは今あるPlayStaion用ゲームを3D表示として新たな息吹を吹き込む’レトロフィット(過去に販売したゲームを3Dアレンジ)’化を計画しているようです。しかしながらゼロからゲームを作るより逆に大変であることが分かりました。The firm revealed at the weekend that the first 3D PS3 games will arrive on June 10. These will include current PSN games WipEout HD and Super Stardust HD.
先週末に、PS3の最初の3D対応ゲームは6月10日に登場予定です。現在でもPSNで販売されているWipEout HDやSuper Stardust HDなどが3Dとなります。Now Sony senior development manager Simon Benson has revealed that more existing PlayStation titles are to get the 3D treatment.
ソニーのシニア開発マネージャーSimon Benson氏は、今後同じように既に発売済のPlayStationタイトルを3D対応していく方針を明らかにしました。“I’m sure we will [retrofit more games with 3D], as adding 3D to a game can make it a whole new experience,” he told the latest issue of Official PlayStation Magazine.
“今後はそうやって(レトロフィットでの3D対応のように)3D化して行くことは確実です。新しい魅力を加えることが出来ますからね。”とSimon Benson氏は公式プレイステーションマガジンで語りました。However, Benson added: “Retrofitting 3D is actually harder than building 3D into a game from the outset. One of the big issues is that all of the game assets were designed to work with only one HD output. Being able to render them twice to make a 3D output can be a challenge.
しかし、Benson氏は”レトロフィットによる3Dは最初から3Dとして開発するよりも実際には大変なのです。”と付け加えました。HD出力を普通は1つだけを想定してゲームがデザインされているのも大きな問題の1つです。それを3Dにするにはレンダリングをもう一度余分にしないと出来ないのです。“Also, the game interfaces are often designed to only work in 2D. The process used [to] covert the games varies greatly… so there isn’t really a ‘on size fits all’ solution.”
“ゲームのインターフェースも2D用にデザインされているので3Dに向いていない場合もあります。ゲームで使われている内部処理を大幅に変更しなければならない場合があるのでうまくいくとも限らないのも問題です””Which older PlayStation or PSN titles would you like to see reborn in 3D beauty, readers?
昔のPlayStationタイトルや、今PSNで販売されているPlayStationタイトルの中で3Dにすると良さそうだと思えるゲームはありますか?
PlayStationのタイトルというのは、もちろんPlayStation2も含まれると言う解釈は可能だと思いますが(現時点ではPSNで販売されていませんけど)恐らく読んで字の如くPSoneのことでしょう。
PSoneゲームのうち、販売できそうな(ベスト版のように成功を収めた実績がある)ゲームで3Dに適しているものを抽出して販売するのは営業戦略としては間違っていません。
ベスト版と聞くと、我々ユーザー側にも”売れたゲームである”という安心感が生まれ、過去の古いタイトルであっても購入する選択肢として挙げることに抵抗はありません。ベスト版をターゲットに3D対応可能なゲームを選択してくることは間違いが少ない戦略です。
PSoneのゲームであれば新規に3D対応ゲームを開発するよりも比較的低コストで製作可能でしょう。選択としては間違っていません。
そう、間違っていないのです。営業戦略の観点からは。
でも、そこにユーザーのニーズはあるのでしょうか。
3Dといえば大人気だったAVATARを映画館で観た時に感動したのは最初の1時間で、残りの2時間は退屈との戦いこそ皆無であったものの目の疲れとの戦いだった記憶がよみがえってきます。あの映画は(疲れたのは別にして)3Dで企画、撮影されたからこそ評価できるコンテンツです。3Dで企画されていなかったらあのAVATARとは違ったAVATARとなっていたでしょう。
3Dを視野に入れて開発したゲームであれば、AVATAR同様多大なエンターテイメント性を持ち合わせ大ヒットする可能性を秘めています。
その大ヒットが3Dゲームへの、そして3Dテレビへの需要を喚起し、更に3D化が進むという好循環が生まれます。AVATARのヒットが今の3Dテレビ発売を盛り上げているのは間違いありません。
ソニーもその風に乗ってE3でPS3の3Dを大々的にアピールしてきます。次に必要なのは更に3Dの需要を掘り起こすための3Dコンテンツ、つまり3Dゲームです。
・・・それがPlayStationタイトルですか?
3D対応は、単なる表示の3D化でしかありませんよ。ゲーム体験まで3D化するのは無理ですよ。
3D対応ゲームの製作には、タダでさえ莫大な製作コストがかかるPlayStation3に輪をかけるエクストラコストが必要です。
採算が取れるとの判断があればもちろん、開発コンセプト検討時から3Dを織り込んで開発するはずです。BRAVIAとブルーレイを持つソニーであれば、3DテレビとブルーレイとPlayStation3の相乗効果で市場を席巻することも可能です。
その鍵を握るのは優秀なハードウェアではなく、優秀なソフトウェアです。
そのソフトウェアをコスト優先で数合わせのために利用して効果が上がるものなのでしょうか。
ソニーは3Dの旗ふり役のような立場ですが、実は3Dトレンドに半信半疑なのかもしれません。
近年日本のメーカーは韓国や中国といった他アジア地域に電化製品のシェアを奪われています。価格で負けても性能で買っていた時代も終わり、家電メーカーが生き残るための戦略としての付加価値戦略に3Dが選ばれたのは明白です。
それでも積極的に販売するだけの資金がないため、古いゲームでコンテンツを充実させたように見せかけ、メディアを利用して大々的に「3D元年」を声高々と叫び消費者を誘導しているようにしか思えません。
つまり、3D元年を夢見ているのはユーザーではなくてメーカーサイドの思惑でしかないのです。
近い将来、3D対応テレビの生産台数増加に伴い生産コストが下がり、販売されるほとんど全てのテレビに3D機能が搭載されるでしょう。その時にはすでに中韓メーカーも同様の3D機能を兼ね備えた高品質なテレビを販売していることも予想しうる範疇です。その時さらに先んじた製品を作るために、今日本のメーカーは3Dを売る必要があるのです。
テレビのコンテンツは映画やゲームだけではありません。既存のテレビ局に対してもメーカーがデモンストレーションを大々的に実施し消費者ニーズに応えるための3Dという売り文句でなんとかコンテンツを充実させようと必至に営業活動しています。
テレビと言うメディアはインターネットに広告費を奪われ、今必至で営業収入になりそうなコンテンツを探しています。運の悪いことに3Dはテレビでしかなし得ないコンテンツであるため、新たな収入源を求めるテレビ局も食指を伸ばし始めています。
3DはCGであれば計算で作ることも出来ますが、カメラでの撮影を基本とした映像コンテンツとなると製作に莫大な手間と時間がかかります。
実写映像を3Dにする場合、基本的には最初から3Dとして専用機材で撮影する必要がありますが撮影のプロフェッショナルが揃うテレビ局ですらそれは簡単な作業ではないという印象を持っているようです。まず3D効果を確認するにはメガネをかけて3Dテレビで確認しながら撮影しなくてはなりませんし、飛び出す立体映像なのか立体感のある映像なのかも撮影時のセッティングで全てが決まるのです。いままでの延長でコンテンツが作れないため、撮影にもエクストラコストがかかります。
もし3Dが一過性のトレンドで終わらなかった時に備えてテレビ局も準備を怠ってはいないようですが、今後の成り行きによってはテレビ局が3Dに興味を示さなくなる時代も近いかもしれません。すべては「それが収入につながるかどうか」ですから。
テレビもゲームも全ては営業的戦略の上に成り立っています。3Dはユーザーに飛びついてもらうために、企業が今投資できる範囲の資源を注入し、今出来る範囲の準備だけをしています。
では、我々ユーザーは何に注意して行けば良いのでしょうか。
それは時間の経過です。
ユーザーはAVATARの効果が切れるころに必ず気が付くはずです。
実はメガネをかけないと使い物にならないニッチなキワモノ製品だったことに。
寝ながらテレビ、観れないことにも。
今ソニーをはじめとするコンテンツメーカーがすべきこと、それはユーザーが真実に触れてしまう前に新しいコンテンツを出し続けることでユーザーに疑問を抱かせる時間を与えないことです。新しい体験で連続的に消費者マインドを刺激し、その裏で技術開発を進めて本当の3次元表現が可能なテレビを開発することを切に希望します。