SCEはAppleを意識し過ぎたのか 先に買ったアナタは負け PSP goを前代未聞の10,000円値下げへ

2009年のE3で華々しくデビューを飾ったPSP go。デジタルコンテンツのみをターゲットにすると言う時代を先取りしたかのような先進性に富んだデバイスでした。

2009年11月1日の発売当初月こそある程度の数が販売されましたが、その直後から販売台数は激減しメディアクリエイト発表の週間販売台数でもPSP-3000がコンスタントに数万台売れる中、1000台未満となる3桁数しか売れていないという現行ゲーム機(PlayStation2を含む)の中でも最低の販売台数の不人気ゲーム機に成り下がっていました。

そして2010年10月25日、SCEは翌10月26日(火)よりPSP goを16,800円に値下げする、と、発売から1年を経過していないゲーム機であるにもかかわらず異例の10,000円もの大幅値下げを発表しました。かねてから値下げの噂はあり、ゲーム業界からも値下げの必要があると幾度となく言われ続けてきた不人気ゲーム機PSP go値下げの狙いと今後の行方を考察してみます。

PSPgo_price_cut

1. PSP goがユーザーに支持されなかった理由
PSP goが売れなかったり理由、つまりユーザーに支持されなかった理由は携帯ゲーム機としてはかなり高額な26,800円の価格設定と、ダウンロードコンテンツの高額な価格設定の相乗効果に他なりません。
例えば『みんなのGOLF ポータブル PSP the Best』を買いたいと思ったとします。
価格を調べてみると、
UMD版は2,800円
ダウンロード版は2,200円
です。

UMD版は通常は値引きされて販売されます。
楽天ブックスの『みんなのGOLF ポータブル PSP(R) the Best』の価格と
アマゾンの『みんなのGOLF ポータブル PSP the Best』の価格を調べてみれば実際の価格は2800円よりも遥かに安いことが分かります。

一方でダウンロード版には値引きというものがありません。希望小売価格同士で比較すればダウンロード版は安価であるのは間違いありませんが、現実にはそれほど安価ではない、場合によってはダウンロード版の方が高いということもあり得るでしょう。

更にはUMD版であれば、プレイし終わった後に買い取り店へ売ることも可能です。実質購入価格は買い取り価格分安くなることになります。購入する側としても中古の方がより安価に同じゲームを入手できます。
こう考えると既存のPSP(1000/2000/3000)のユーザーがわざわざダウンロード版を購入する必要が皆無であることが分かります。仮にダウンロードコンテンツとしてしか存在しないものを購入するとしても、メモリースティックを買い足すだけで実質PSP goと同等の機能を手に入れることができる訳ですから既存モデルで十分ということになります。

新規にPSPを購入しようと思っているユーザーにとっても、敢えて高額なPSP go本体を選択し、そろばん弾けば明らかに得をするとは思えないダウンロード版を購入したいとは考えないでしょう。

しかしこれはPSP go販売開始当初から予想されていたことですが、
SCEが本体やコンテンツの販売てこ入れを行ってこなかったために、結果としてPSP goは「プレイステーション」ブランド唯一と言える不人気機種になったのです。

2. SCEの失敗
PSP goには2つの役割があったとされています。市場調査とハッキング対策の有効性の確認です。
実際SCEAのJohn Koller氏がPSP goにバッテリーを脱着式にしないなどハッキング対策を施したと説明したり、Andrew House氏が消費者動向の調査のために発売したとかたったりしていますが、それらの発言はすべてPSP go発表後、つまり仕様確定後のことであり、確かに企画会議上ではそういった話題もあったのでしょうがマーケティング重視の商業社会でそんな理由で新製品を発売することはできません。当然ユーザーの新しいニーズを掘り起こし一大ムーブメントを作るべく発売されたのです。

PSP goは発売直後から販売台数が急激な下降線をたどったにもかかわらず、ゲームを無料でダウンロードできるというおまけ以外の販売促進策を放棄していました。このことから確かに売れなくても構わないと言うSCEの意思は感じます。
最初の価格設定が高額であることはSCEも認識していたようですが、広告宣伝費もかけないほど放置していたのは、Andrew House氏が「いろんなことを学べた」と強がってはいるものの営業的に失敗策であることを暗に認めていることになります。

ユーザーニーズの掘り起こしが不発に終わり、方針転換含めたてこ入れを放棄して販売不振の典型的なデススパイラルに自ら身を投じることをよしとしたのがSCEの失敗でしょう。しかし最大の失敗はそこではないのです。

3. 当初の価格設定は妥当だったのか
PSP-3000が存在する以上、性能同等で値段だけ高い物が売れるはずが無いと誰もが考えるこの時代に、バリューパックなど含めた歴代PSPのなかでも高額な部類だったPSP goの26800円という価格設定の数字はどこにその妥当性を見い出すことができるのでしょうか。

まず、戦略的価格設定(あえて安価に設定することで販売数を押し上げる。結果的にコストダウンを図ることができる)ではないことは明らかです。もともとPSPは19,800円の価格設定でしたので、それより5,000円以上高額にも関わらずユーザーの見地からは「できることが少なくなった」機能しか持たないためです。
かつてAppleはフラッシュメモリーの価格が今ほど安くなかった時代にもiPodに戦略的価格を設定し、フラッシュメモリーの市場価格からすれば不当とも思えるような安価なデバイスとして市場に投入されました。部品コストを押さえるべく交渉した結果だと考えられますが、ここにiPodを主力製品にしたいAppleと、売る気のないSCEの差が垣間見えます。

PSP goは16GBのフラッシュメモリーを採用していますが、PSP go発売時に16GBを搭載すると本当に部品調達コストが高額だったのでしょうか。
参考までに、同じ16GBを同時期に採用し内容的にも一番近いAppleのiPod Touchの価格を見てみるとiPod Touch 16GBは35,800円でした。8GBモデルが27,800円でしたので、価格的に近いのは8GBです。
ただし、iPodはアメリカ製品であるため日本円の価格設定は為替レートの影響を受けます。実際に同モデルの北米での価格は16GBが299ドル、8GBモデルが229ドルでした。PSP goは北米での発売時の価格が249ドルであるため、価格レンジ的にはiPod Touchをにらみつつ同16GBよりも安く8GBモデルより少し高いが容量は倍でお買い得感を演出したところを狙っていたようです。

Appleの価格戦略と比較すると、PSP goの価格設定は非常に説得力のある「戦略的価格」であることが見えてきます。SCEのみならず任天堂も「ライバルはApple」と認識していますので、PSP goは部品コストが高額だったのではなくライバルのAppleより安い設定にしただけであれば価格設定は妥当なのです。

ここにPSPの派生製品としてしか見てないユーザーと、Appleの市場を伺うメーカーという構図が見えてきます。

PSP goの26,800円を高いと思うユーザーはポータブルゲーム機のPSPとしてgoを評価しました。SCEはユーザー誰もが見ていない「仮想ライバル」に過ぎないAppleを意識し過ぎたようです。巨大な敵Appleを相手に市場調査のための発売だの、ハッキング対策の有効性確認のための発売だのというサンプル製品を本気でサンプルのつもりで発売するはずがありません。SCEは間違いなく本気でAppleを倒しに行ったのです。

どうやらユーザーとメーカーの間で見ていた物が違ったようです。そこがPSP goに於けるSCEマーケティングの最大の失敗です。

4. 設定された値下げ日から見たSCEの本気度
この写真は2010年10月20日に家電量販店のゲーム販売コーナーで撮影した物です。

PSPGO

それ以前にも別の販売店で10月14日時点で19,800円で販売しているのを見かけましたし、ヨドバシカメラでも同じような価格で販売していたことが分かっています。値下げ発表日に向けて徐々に値段を下げてきていたようにしか思えません。仕入れ値が変わらないのに複数の販売店で大幅値下げに踏み切るのは赤字覚悟に他なりませんので、事前にSCEから値下げ打診を受けていて在庫整理のための販売促進費用が出ていたのではないでしょうか。その結果が値下げを25日に発表、翌26日から値下げであると考えられます。25日の値下げ発表時にはまだ26,800円で、翌日から1万円値下げという販売店側からすれば不利益以外の何物でもない激震を故意に緩和したことになります。

このことからSCEは計画的にPSP goの値下げに踏み切ったことが分かります。ただ一つ腑に落ちないのは、なぜ値下げ開始日を火曜日にしたのか、です。

SCEの新製品発売日は今まで週末需要を見込める木曜か大安が選ばれてきました。
【参考記事: PSP goの発売日はなぜ11月1日なのか、その謎に迫る
この時の調査では、PSPの発売日は
PSP-1000 >> 2004年12月12日 (日) 大安
PSP-2000 >> 2007年 9月20日 (木) 大安
PSP-3000 >> 2008年10月16日 (木) 友引
PSP go >>>> 2009年11月1日 (日) 大安
となっていて、PSPは縁起を担いで発売日が決められていることが分かりました。

しかし、PSP goが値下げされる2010年10月26日(火)は先負です。
ちなみにPSP-3000が16,800円に値下げされたのは2009年10月1日(木)で友引です。木曜日であるためPSPの歴史に則っています。

先負とは、「急用・争い事・公事などを避け、静かに待つのがよいとされる日。午前は凶、午後は吉」。(Appleやユーザーとの)争いごとは避けるべき日を敢えて選んできた意図ははかりかねますが、理由があるとすれば
「Appleに負けは確定したので先に白旗の自暴自棄」
しかありません。
先に負けを認めた。これが2010年10月26日(火)をPSP go値下げ日に選んだ理由なのかも知れません。

5. したがってPSP goは16,800円でも失敗する
PSP goがもし始めからPSPとして戦略的価格設定を採用し、値下げ後価格と同じ16,800円(PSP-3000シリーズと同じ価格)だったとしたら、結果的にはここまで自暴自棄にならずに済んだかもしれません。
しかし、先に負けを認め値下げに踏み切ってもPSP goがユーザーに支持されなかった理由を改善せぬままであることをSCEは認識しているのでしょうか。そう、先述したダウンロードコンテンツの高額な価格設定です。

単純にPSP go本体が安ければ売れるのであれば中古本体が良く売れているはずです。中古が売れれば必然的に市場がタマ不足となり中古価格が高騰、新品価格との差が少なくなるとせっかくだからと新品を買うユーザーが増えるという好循環が生まれます。しかしそんな話は全く聞こえてきません。

本気でPSP goを主力製品として長く強く売りたいのであればSONY製品の他ブランドの傾向から考えると
・32GB版などより大容量のフラッシュメモリーを搭載した上位版を用意し16GB版を値下げする
・カラーバリエーションを増やす
という戦略がとられるはずですが、現実は現行モデルを単に値下げしたに過ぎません。
これはSCEがPSP goに見切りをつけて見捨てたことに他ならず、単なる在庫整理かPSP2発売に向けての価格調整以外に理由は見当たらなくなります。

メーカーに売る気がない物をユーザーは買いません。

せっかくお手頃価格となったPSP goですが、販売的にはこれからも失敗し続けます。

6. 終わりに余計なひとこと 〜PSP goが突然売れ出す怪奇現象は2010年12月
2010年12月にPSP goは突然売れ始めます。

クリスマス商戦だからではありません。6.20TN(HEN)がリリースされるからです。

発売当初に予約までして26,800円で購入し、値下げ数ヶ月前に中古を今回の値下げ後価格より高い金額で購入した私のようなユーザーにとっては、SCEのやる気の無さに怒りすら覚えます。
人に先んじて購入したのは失敗だと思わせるPSP goはPlayStationブランド最初で最後の製品であってほしいと願います。

先負。先に買った人は、負け。きっとこれがSCEからの本当のメッセージです。

SCEはAppleを意識し過ぎたのか 先に買ったアナタは負け PSP goを前代未聞の10,000円値下げへ” に対して10件のコメントがあります。

  1. KY より:

    従来言われていたことに加え、独自の知見があり、非常に面白く読ませていただきました。
    ただ、ゲーマーとしてひとつだけ付け加えさせていただくとすれば、一番アレだったのは、コントローラが操作しにくそう、かつ実際に操作しにくいという点です。モンハン持ちなんて問題外。
    売れそうにないもの売って売れなかったわけで、悲しいですね。

  2. まもすけ より:

    @KYさん

    ありがとうございます。

    まあ、半分シャレみたいな結論ですw

    Goのインターフェイスは好き嫌いが分かれそうですが、そもそもPSPのボタン配置でプレイすべくゲームは設計されているので、それを変えてしまったら慣れている人にはプレイしにくいでしょうね。

  3. Lock より:

    なんというか任天堂で言えばバーチャルボーイ・・・いや,ゲームボーイミクロというところでしょうか・・・w

    現行UMDも使えないので,ほぼ完全に新規ユーザーに絞られますしね。
    Bluetooth機能はなかなか素晴らしい思うので
    PSP2にも是非搭載していただきたい機能です^^;

  4. ふーくん より:

    いつも楽しく見させて頂いています。
    PSP-1000,2000,3000と購入し、goも購入しました。
    実際にgoを購入し、手にすると不人気機種とは思えないほど便利に感じました。
    本体に保存ができる、ゲームの中断ができる、かなりスライド式でとてもコンパクトなど等・・

    価格設定や操作性がいくらなんでも悪すぎ、という明らかなデメリットはあるものの、やはり「ダウンロード購入」という購入スタイルのメリットや優遇処置を怠りすぎたのかと思います。実際にgoを購入しても、そういうメリットがいつまでたってもなかったので、結局PSP-3000へ戻りました。
    価格が安くなるといっても、goが魅力的に見える程の価格でもないので、やはりダメでしょう。

  5. まもすけ より:

    @Lockさん
    バーチャルボーイw
    そこまで行きますか!?

    Bluetoothは今時のスマートフォンもケータイも殆ど搭載していますからPSPには今後標準搭載してほしいですね。キーボードのプロファイル対応希望です。キーボードあればブラウザが生きてきます。

    @ふーくんさん
    私はデザインだけは秀逸だと思います。操作ボタンの代わりにqwertyキーボード付いてるスマートフォンだったら買いなのになぁとずっと思ってました。
    PSPで無ければ良かったのにw

  6. ほしまる より:

    個人的には、UMDへのフォローがない(既存のPSPユーザーを完全に切り捨ててる)のが非常に残念でしたね。
    それが確定するまでは、価格はともかく買ってみようかなという気になってたのですが・・・

  7. まもすけ より:

    @ほしまるさん

    PSP goは既存ユーザーにとってはコレクション用途以外の実用性が皆無だったのが残念ですね。PSP PhoneはPSP goにAndroid付けた電話みたいなので、goはこのまま行くと中古価格は暴落です。

  8. msa より:

    私も勢いで発売日に買っちゃいました・・・。
    でもDL版ソフトを買うのもなんだか気が進みませんでした^^;
    中古でUMD買ったほうが絶対お得ですよね、ほとんどの場合w

    今はHBLで自作動かして遊んでます、まだfwは6.20です。
    TNが出てISOローダーなんかも出たら、今持ってるお気に入りのUMD(ガンダムvsNEXTなど)もできるのかなあ・・・。
    12月を密かに楽しみにしている次第ですw

    DL版をもっと安くしてよ・・・ソニーさん・・・。(泣)

  9. まもすけ より:

    @msaさん

    そうですよね。
    私の持論は、ダウンロード販売でのゲーム価格は1000円以下であるべき、です。一番高くても1000円です。
    100円とか300円、500円という数字が並んでいたらより買いやすくなりますし、中古買おうとも思わないですよね。

    下手に流通業に気を遣うからこうなるんです。Wiiや任天堂のようにUMD版との棲み分けをしてダウンロード専売ゲームを安価に提供していくところから始めなかったのがそもそも失敗です。

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